株について1から勉強するブログ

理系職サラリーマンの独学経路の記録。先生は本(だいたい図書館)とネット。

会計編4:貸借対照表

ドコモの貸借対照表

さて、そろそろ実際の財務諸表を見てみよう。今回は、以前簡易DCF法で企業価値を算出したNTTドコモを例とする。ドコモのWebサイトで財務諸表を見ることができるが、ドコモのIR情報ページに載っているのは報告書形式であり少々読みにくいため、「 docomo 決算書」でググって出てきたエヌ・ティ・ティ・ドコモ[9437] - 決算書(財務諸表) | Ullet(ユーレット)というページを以下に引用する。
f:id:m_ogawa:20140128044431p:plain
会計編3で説明した複式簿記形式になっていないが、これは複数期(年度)の情報を列挙するために一行にまとめているだけで、たとえば2012年3月決算のBSを複式簿記形式で書くと、以下のようになる。

借方 貸方
(資産の部)
現預金等 893,582
その他流動資産 1,464,679
有形固定資産 2,536,297
無形固定資産 885,721
投資等 1,167,803
(負債の部)
流動負債 1,154,003
固定負債 731,552

(資本の部)
資本(純資産)合計 5,062,527
総資産 6,948,082 負債資本合計 6,948,082

このように見ると、確かに左右の数字が一致している(バランスしている)ことが分かる。今回は、この表を使ってバランスシートの読み方を整理したい。

バランスシートから分かること

説明が長くなるので、先に要点をまとめておく。

BSは健康診断(ストック)

上記の要点によると、BSからは企業の安定性が分かる。なぜだろうか。
これは、BSにはストック(貯蓄)が記載されるためである。BSは、決算時点(ドコモなら3/31)での企業の貯蓄を表している。言い換えると、ある期間でいくら儲かったか(収支)は関係なく、いま手元に何が残っているかを示している。BSからは貯蓄しか分からないので短期的な損得は分からないが、貯蓄の増減や割合を見ることで経営状態が分かるのだ。たとえるなら健康診断の結果に近い。健康診断の結果からは、食事や運動の内容は分からないが、身体が健康なのか不健康なのかは分かる。なぜBSにストックが記載されるかというと、BSに記載される科目(資産・負債・資本)がストックを表すからである(ストック科目という)。
これに対して、損益計算書(PL)に書かれる収益と費用はフロー科目と呼ばれる。損益計算という名前の通り、ある期間でいくら儲かったか(食事や運動の内容)を表す。
一般的に、会社の状況変化は、まずPLに現れる。何かが儲かったり損したりするためだ。その変化が傾向性を持って続く場合、次はBSに影響する。よって、BSの状況が良ければ会社の状況変化に強いし、BSの状況が悪ければ簡単には会社は改善しないのである。これは、健康な身体なら多少の不摂生にも耐えうるが、不健康な身体では多少運動したところですぐには改善しないと考えると分かりやすい。

資産と資本

冒頭に引用したBSでは、「総資産」「資本(純資産)」という言葉が書かれている。これが何を指すか、言葉の定義の問題に過ぎないが、知っておかないと困るので説明する。
いままで資産・資本と言ってきたが、これらの定義は、以下のとおりである。

  • 資産:現預金や、将来お金に変わるもの。「総資産」「総資本」とも呼ぶ。
  • 資本:株主の持ち分。資産から負債(借金)を引いたもの。「純資産」「純資本」とも呼ぶ。

ということで、まず「総」か「純」かで区別し、それが書かれていなければ「産」か「本」かで区別すればよい。

流動と固定

次に、資産・負債ともに流動と固定の2種類があるのだが、この違いを説明する。
流動資産は、1年以内に現金化されるものを指す。流動負債は、1年以内に返済する必要がある借金を指す。流動と固定の線引きは、1年である。固定は、流動でないものと覚えれば良い。
基本的に、資産は流動的であることが望ましい。なぜなら企業活動とはお金の姿を変えながら儲けを出すことだからだ。良い企業活動は、このお金の姿を変える行為(取引)がなるべく早く行われる*1。固定資産を持つということは、リターンが遅くなる、と考えればよい。ただし多かれ少なかれ企業活動には固定資産は不可欠であるし、お金に変わるまでに時間が掛かったとしても多くのリターンを得られるならば投資の価値もあるため、単純に大小だけで見てはいけない。どういう目的で何に投資しているかが重要だ。

信用取引と発生主義・実現主義

このタイトルだけで記事1本にしても良いのだが、無理やりまとめてみる。
上で流動とは1年以内のこと、と説明したが、1年とはいえ未来の予測を会計帳簿に含めてよいか、という疑問が沸きあがる。「1年以内に現金化されるもの」とは誰がどのように定義するのか。企業が自由に設定できるなら、いくらでも数字を操作できることになるので不都合だ。よって、会計ルールが存在する。それが発生主義と実現主義である。
その前に、信用取引について説明する。信用取引とは、物を買うときにツケで払うことだ。これは2ヶ月後に払うから今すぐ払うのは勘弁して…ということで、つまり短期的な借金なのだが、社員それぞれがお金を持ち歩いて仕事をするも不都合なのでお互いに信用して取引をするのである。信用取引による収益(予定)を売掛金といい、支出(予定)を買掛金という。また、実際の支払いの際に現金ではなく「何月何日に何円支払います」という証明書(手形)を発行した場合、それぞれ受取手形・支払手形とよばれる。これらは基本的には数ヶ月オーダーでの約束事のため、流動資産流動負債となる。
このようにして流動資産・負債は生まれるのだが、いつ帳簿に計上するかが重要になる。なぜなら、そのタイミングによって、BSに反映されるか否かが決まるからだ。結論からいうと、負債は早く記載され、資産は遅く記載される。これを発生主義(取引の可能性が有れば記帳する)と実現主義(取引実施がほぼ確実であれば記帳する)という。これによって、見込みで借金を少なく見せたり、資産を多く見せたりすることはなくなる。
また関連して、減価償却についても触れておこう。言葉も概念も有名なので直感的には理解されていると思うが、会計上での処理について一応説明したい。簡単に言うと、長期にわたって使えるものを購入した際に、お金は一度に払うのだが、会計上は徐々に払うような処理をすることである。具体的に何が起こるかというと、購入時には、以下のような帳簿記入をする。

借方 貸方
(資産)生産設備 100万 (資産)現金預金 -100万

その後、例えば5年償却・定額法の場合、以下のような帳簿記入をする。

借方 貸方
(費用)減価償却費 20万 (資産)生産設備 -20万

つまり、最初は(固定)資産として一括して計上するのだが、徐々に費用に置き換えていくのである。なぜこのような面倒なことをするかというと、利益が収益-費用で計算される為である。資産に計上した分は、支出として扱われない。よって大きな固定資産を買うことで初年度に大赤字になることが無くなる。
ここで先ほどの発生主義と実現主義を思い出してほしいのだが、実は費用と収益もまた、発生主義と実現主義で計上されるのだ。もし一括で設備購入費として費用で計上してしまうと、費用は発生主義のためその時点で帳簿記入される。しかし収益は、5年間持続するものなのに、実現主義のため実際に得られた収益(1年分)しか帳簿記入されない。これでは、1年目に大赤字になってしまい、投資家にそのような帳簿を見せたくない経営者としては、投資を控える動機が生まれる。これでは本末転倒になるため、一度資産に計上することで支出を少なく見せて、実情に合わせるのである。この一連の処理を減価償却という。
もちろん、支出を少なく見せているとは言っても実際にお金が姿を変えているので、それは固定資産の金額を見れば分かる。また、キャッシュフロー計算書という財務諸表を見れば現金が減っていることも分かる。あくまで損益計算書(PL)で赤字にしないための処理と考えてほしい。

在庫は売れる前提

話を戻して、流動資産について補足しておく。流動資産には、実は商品在庫も含む。これを棚卸資産という。つまり、商品在庫が全て1年以内に売れる前提で帳簿に記載されるのだ。これは一見すると不思議な仕組みだが、会計の思想に忠実に従ってのことである。
というのは、会計の思想では「お金→資産→費用→収益」という(お金の変化の)流れが基本なのだ。減価償却も同じ考え方である。商品在庫は設備と同じように、まず資産として扱われる。実際に売れたところで、売れた分だけが費用になり、その売れた分に対応する収益が計上される。この費用と収益の対応を、費用収益対応の原則という。この原則は、費用として計上するのは、収益(売れた分)に対応する分だけ、ということである。ちなみに、たとえば商品が売れずに腐ったり、災害で設備がダメになったり、売掛金が回収できないなど、資産が収益につながらず費用に置き換えできなくなるケースがある。この場合は引当金という科目を使って、資産を直接マイナスする(損失という)。よってやはり費用はあくまで収益につながるのが原則なのだ。
よって商品在庫は資産として扱われるのだが、これは果たして固定資産か流動資産か、という疑問が発生する。会計上、固定資産ではないということになっている。ただし売掛金受取手形よりも収益を1年以内に回収できる見込みは低い。そのため、棚卸資産という名称がつけられており、流動資産からこれを除いて企業の安定性を評価することもある(当座比率のこと。後述する)。

安定性を見る

さて、ようやく考察の説明に辿り着いた。冒頭で述べた安定性の指標(流動比率固定比率自己資本比率)を見てみよう。冒頭のまとめを再掲する。

上で長々と述べた説明を読んでいれば、大して難しい話ではない。
流動比率は、流動資産流動負債の割合である。つまり1年以内に現金化するお金と、返済するお金の割合なので、短期的な借金を返せるかどうか、がわかる。なお、分子の流動資産から棚卸資産を除いて当座比率(=(流動資産-棚卸資産)/流動負債)という指標を使うこともある。当座比率で判断する場合は、商品在庫(購入済み材料・製造途中のものなど)の売れ行きを考慮しなくてよい。
次に固定比率。固定資産と自己資本の割合である。自己資本は単純に資本(純資産・純資本)と考えて良い。固定資産は流動資産の逆なので、つまりすぐには現金化しない資産である。いずれ費用として計上され、それに対応して収益が上がるのだが、あくまで長期的な話である(下手をすると引当金でマイナスになるかもしれない)。これが、もし短期的な借金で賄われているとしたら、どうだろうか。債権者・株主からすれば、「長期的な投資なのだから、長期的に手元にあるお金でやってくれ」と思うに違いない。長期的に手元にあるお金とは、流動負債以外とも言えるが、最も安定しているのは返済不要の「資本(株主の持ち分)」である。よって、固定比率を見ると、固定資産への投資が資本で賄われているかどうか、が分かるのだ。
最後の自己資本比率だが、自己資本+負債=総資産だから、会社の全財産に対する借金の割合を見ている。なるべく数字が大きいほうが、借金の割合が少ないということである。

返済能力の重要性

当たり前の話だが、会社にとって返済できるか否かは、すなわち生死を表す。一般的に、2回借金返済ができなければ破産となる。そのため、上記のように短期的・長期的の両面から、借金返済の可否が評価される。

ドコモの場合

最後に、ドコモがどうなのか、見てみよう。2012年度の決算の数字から計算する。

借方 貸方
(資産の部)
現預金等 893,582
その他流動資産 1,464,679
有形固定資産 2,536,297
無形固定資産 885,721
投資等 1,167,803
(負債の部)
流動負債 1,154,003
固定負債 731,552

(資本の部)
資本(純資産)合計 5,062,527
総資産 6,948,082 負債資本合計 6,948,082

それぞれ、判断指標はおおよそ以下のとおりだ。

  • 流動比率:150%以上なら適正、100%未満は危険。
  • 固定比率:100%以内が理想、120%程度なら健全範囲、200%以上は危険
  • 自己資本比率:70%以上が理想、40%以上なら健全。

これに照らせばドコモは大安定といえる。さすが元国営、業界最大手通信インフラ会社である。ただし「話を鵜呑みにしない」という点で注意は必要だろう。というのは、まず上記判断指標は本やWebに載っている目安値だが、この数字が天下り的であること。業界によっても違うだろうし、世間の状況(たとえば最近は投資を増やす傾向がある…など)によっても傾向があるだろうから、実際の投資の際には世間動向のチェック、他社比較をした上で安定性を考察したい。また、BS自体が操作されていることも十分考慮すべきである。特にBSは健康診断の結果である。つまりある時点(3月31日)の状況を切り取って表示しているに過ぎない。これは、3月31日に合わせて企業が何らかの操作ができるということだ。もちろん大きな操作をしていれば損益計算書やキャッシュフロー計算書にも現れる。だが、よほどの事件でもない限り、テレビや雑誌で報道してはくれないので、自分であら探しをしなければならない。大手企業の場合、会計監査があるため余程のことはないと思うが、大手のような人の多い会社では、組織としては腐りやすい*2ので、中の人的には悪意なく悪事を働いている可能性もある。また、証券アナリストが企業評価をしてコメントすることがあるが、このコメントは基本的に企業の機嫌取りだと思って良い。というのは、当然、企業は悪い評価をするアナリストには自社評価をしてもらいたくない。そこでたとえば「ドコモのアナリスト」と呼ばれればアナリスト自身は箔を得るわけだから、それを手放す動機は無い。よってアナリストとしては企業を悪くは評価できないのである。

BSとPLとCS

話を戻そう。とりあえずBSからパッと見て分かることは、上記のとおりである。
上述の通り、BSは健康診断でしかない。これはPL(損益計算書、食事と運動)とキャッシュフロー計算書(財布の出入り状況)と密接に関わっており、すべてを合わせて評価する必要がある。次回以降、PLとCSについて説明する。

参考

決算書がスラスラわかる財務3表一体理解法 (朝日新書)

決算書がスラスラわかる財務3表一体理解法 (朝日新書)

会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本<会計の基本の基本編>

会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本<会計の基本の基本編>

本稿は、1週間かけてこれらの本を読み込み、自分なりに再構成してアウトプットしたものである。この2冊には詳細が書かれているため、本を読めばより理解が深まるだろう。

*1:これを回転率という指標で見るが、説明は後日。

*2:あくまで私の勝手な主観である。